大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)2207号・昭41年(ワ)4788号・昭42年(ワ)1275号 判決
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〔判決理由〕そうすると、本件作業室の内部において発火源となりうるのは、電気機器以外にないので、これについて考察する。
本件作業室の中にはコンセント二口、換気扇、螢光灯、絞り機(遠心分離機)がそれぞれ一台置かれていたことは前記認定のとおりである。
<証拠>を総合すると、前記の紋り機は本件事故以前から、金属性の音が出ると火花が出ると言われており、本件事故当日も金属性の音が出るというので、大窪英一と許斐和夫の二人が、当日の午後五時頃に三〇分ほどかかかつて修理したこと、天井に設置されている螢光灯は普通に用いられるもので、特にスパークが生ずるのを防ぐ装置はなかつたこと、絞り機に付設されているモーターやスイッチ、螢光灯からスパークが生じ、あるいは絞り機のブレーキから金属の接触によるスパークが生じ、それらがシンナーの気化ガスに引火する可能性は否定できないことが認められ、他方コンセントは換気扇と紋り機に接続していたことは前記認定のとおりであり、換気扇に特に異状はなく、正常に回転していたことは原告山鹿ミツ子の本人尋問の結果より明らかであつて、証人西田昭の証言のうち右認定に反する部分は措信しない。
紋り機のモーター、スイッチまたはブレーキから生じるスパークあるいは螢光灯から生じるスパークが発火源であるとの確証は存在しないが、前記のとおり排斥したタバコの吸殻およびマッチの燃差を含めて他に特に発火源となるものが認められず、逆に右スパークが発火源となつた可能性が十分にある本件事故にあつては、反証のないかぎり、右スパークがシンナーの気化ガスに引火して爆発したものと推定するのが相当である。
そこで、右のような原因による本件事故について、被告会社の行為が不法行為責任上いかに評価されるかはさらに検討を要する問題であるから、あらためて考察する。本件作業室におけるように、三個の相当大きな金網籠の上一面にシンナーとラッカーの混合液に浸したコーン紙を並べて自然乾燥させる場合、多量のシンナーの気化ガスが空気中に発散し、しかもその気化ガスはごく低温で発火することは前記認定のとおりであるから、右のような作業を行わせる者は、その作業にあたつて少くとも作業室に気化ガスが充満しないよう部屋の構造や換気装置を整備し、点火源となるおそれのある機械器具を使用してはならず、換気について相当な措置をとつてもなお右気化ガスが爆発の危険のある濃度に達するおそれのある場所において電気機械、器具を使用する場合は、その気化ガスに対し防爆性能を有する構造のものでなければならず、使用に際しては事前に綿密に点検し、もつて気化ガスに対する引火を防止し、作業に従事する者の生命、身体に対する直接の危険を確実に防止し、安全、衛生、福祉のうえでも有害な原因となるものをすすんで除去する義務があるというべきである。右のような義務が使用者に課せられていることは、昭和四一年一二月二八日法令第三五号による改正前の労働安全衛生規則第一四〇条、第一四〇条の二第一項、第一四〇条の三第一項、第一四〇条の八にてらし明らかである。
ところが本件作業室には前記認定のとおり、出入口と窓の一角に設置された換気扇以外には空気の流通する箇所はないため、作業により発生するシンナーの気化ガスが充満し、その臭気が鼻をつき、作業中卒倒する者さえ出た始末であり、従つてわずかのスパークでその気化ガスに引火する危険を内包していることは関係者一同に熟知されている状態で、電気器具についても、螢光灯は前記のように不完全なものを使用しており、紋り機もスパークを生じる不完全なもので、点火源となるおそれがあり、また証人西田昭の証言によれば、被告会社は日頃から電気器具の点検など必要な事故防止策をとつておらず、紋り機の故障も専門家に修理させず、作業に従事している者が修理する等ずさんな管理をしていたことが認められ、被告会社代表者島谷清一郎の本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は措信しない。
以上を総合して判断すると、被告会社は、危険な物を取扱う企業として社会生活上要求される前記の注意義務を怠り、そのために本件事故を発生させたものであり、とりわけ、事故による被害の重大さを考えると、本件事故のような事態の発生を予見し、その防止のために注意義務を尽すことはきわめて強く要請されるところであり、現に甲第八号証の一一によれば、昭和三九年九月頃同じ作業工程で本件事故と同様の事故が発生したことがあつたことが認められるので、被告会社が引火爆発の発生を予見することは容易であり、その予見にもとづいて前記のような注意義務を尽して事故の発生を未然に防止する措置をとることもまた容易であつたと解され、結局本件事故の発生は被告会社の重大な過失によるものと認められる。<中略>
(原告岸川の請求に対して)
被告会社は、原告岸川は労働者災害補償保険法にもとづき、金員の給付をうけていると主張するが、右原告の請求しているのは精神的損害に対する慰藉料であつて、同法にもとづく保険給付金は精神的損害まで填補するものと解することはできないので、慰藉料算定の一資料とはなりうるが、給付された額だけ当然に慰藉料が減額される訳ではない、と認められる。従つてこの点に関する被告会社の主張は排斥を免れない。(北浦憲二 岡山宏 安木健)